【マルトリートメント】と不登校の関連性|子どもの心の声に耳を傾ける

「マルトリートメント」とは1980年代からアメリカで広まった表現で、日本語では「不適切な養育」と訳されます。これは、子どもの心と身体の成長を妨げる養育を指し、身体的・心理的な虐待およびネグレクトを含みます。

マルトリートメントは子どもに深刻な心理的苦痛を与え、不登校の引き金となる可能性もあるでしょう。この記事では、マルトリートメントについて解説するとともに、不登校との関連性についてくわしく説明します。

マルトリートメントの世代的連鎖についても書いていますので、子育てに悩んでいる親御様は自分の幼少期の経験を振り返ってみてください。

目次

マルトリートメントはどうして起こるの?

マルトリートメントは、子どもたちの心身に計り知れない傷を残し、未来の可能性を奪ってしまう恐ろしさがあります。本来、子どもの安全を守り成長を支える大人が、なぜ不適切な養育をしてしまうのでしょうか。

ここでは、マルトリートメントの種類を解説するとともに、家庭と学校で子どもを精神的に追い詰める行為について説明します。

マルトリートメントの4つの種類

マルトリートメントは、一時的な出来事ではなく日常的に繰り返し行われます。その爪痕は、暴力で負った目に見える傷跡だけでなく心にも深い傷を残してしまうでしょう。

子どもを心ない言葉で追い詰め、耐え難い苦痛を与えるマルトリートメントの種類は、主に以下の4種類が挙げられます。

種類 行為
身体的虐待殴る、蹴る、物を投げるなどの暴力
言葉による虐待暴言、罵倒、脅迫など
心理的虐待無視、放置、兄弟の差別など
ネグレクト食事や衣服、医療など必要な養育を与えない

これらの行為は精神的なダメージを与え、子どもに対する適切な養育とは到底いえません。

厚生労働省の調査によると、2022年度の児童相談所への児童虐待相談件数は20万件を超え過去最多となりました。日常的に繰り返されるマルトリートメントは年々増え続け、社会的な問題になっています。

参考:令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数

家庭でのマルトリートメント

家庭は、子どもにとって最も身近で安心できる場所であるべきです。しかし、その家庭においても、子どもが心身に深い傷を負うマルトリートメントが起こります。では、子どもが生活する主な場所である家庭においては、具体的にどのようなマルトリートメントが起こるのでしょうか。

  • 子どもがいる前で夫婦喧嘩する
  • 子どもに妻または夫の悪口を言う
  • 子どもの話を日常的に聞かない
  • 子どもの意思を無視して親が決めた進路などを押し付ける
  • 親の気分で子どもを叱る
  • 子どもをケアしない

これらの言動は、無自覚であってもマリトリートメントといえます。親や親代わりとなる大人によるマルトリートメントは、子どもが必要とする愛情や養育を怠る行為であり、子どもの健やかな成長を妨げるものです。

また、近年問題視されているのが、子どもに過度な期待をかけて高い学歴や成果を要求する「エデュケーショナル・マルトリートメント」です。教育熱心な親が強制的に子どもに勉強させ、成果がでなければ暴言や体罰で子どもの心を深く傷つけます。

学校でのマルトリートメント

家庭と同様に、学校も子どもが生活する主な場所です。子どもにとって学習や成長の場であると同時に社会性を身につける重要な場所といえるでしょう。しかし、その学校において子どもたちの心身に深い傷を負わせる「教室マルトリートメント」とも呼ばれる不適切な指導や対応が行われる場合があります。

学校おいて起こるマルトリートメントには、どのようなものがあるのでしょうか。

  • 体罰やわいせつ行為
  • 高圧的な指導
  • 児童生徒の話を聞かない
  • 必要な支援をしない
  • 危機的状況が起こっても関知しない
  • 教師の指導的立場の放棄

教師による暴言や無視、放置といった不適切な対応は、違法行為には該当しません。しかし、子どもたちに深刻な心の傷を負わせる可能性があります。

マルトリートメントが不登校を引き起こす

不登校の児童生徒数は年々増え続け、原因は複雑化しています。不登校の1つの要因として、学校や家庭でのマルトリートメントが関連しているのは否定できません。マルトリートメントを受けている子どもが健全な日常を送るのは難しく、不登校だけではなく非行や自傷行為などの行動を起こすケースもあります。

ここでは、不登校について解説するとともに、マルトリートメントと不登校の関連性を考えていきます。

不登校とは

文部科学省によると、不登校児童生徒とは「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあたるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義されています。

引用:文部科学省「不登校の現状に関する認識」

近年、小中学校における不登校の児童生徒数は増え続けています。文部科学省の調査によると、2022年度の不登校児童生徒数は小学校で105,112人、中学校で193,936人でした。不登校の原因は多様化しています。いじめや学業不振に加え、SNSによる人間関係の悩みや発達障害への理解不足などが考えられます。

参考:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

不登校のきっかけである学業不振や人間関係の問題が解決したとしても、再登校できない子どもたちが一定数います。なぜなら、根本的な原因である自己肯定感や自己効力感が低下したままで、活動するエネルギーが満たされていないからです。

不登校とマルトリートメントの関係

マルトリートメントを受けた子どもは、心の健康が保たれなかったり他者との信頼関係が築きにくかったりします。このような状態では学校生活が困難になり、子どもにのしかかるストレスは大きくなるばかりです。

心の健康への影響は、自尊心や自己肯定感が低下し、自己否定的な考えにとらわれやすくなります。人間関係への影響としては、自己主張やコミュニケーションに困難を感じ孤立感や孤独感を抱えやすくなるでしょう。これらの影響は、学校生活に大きな困難をもたらし不登校につながります。

学校生活において慢性的なストレスが続くと、自律神経のバランスを崩し心身の不調を引き起こします。自律神経は、本人の意思とは関係なく本能的に働くものです。神経系に焦点をあてた「ポリヴェーガル理論」からもわかるように、自律神経が引き起こす反応は不登校につながると考えられます。

ポリヴェーガル理論については、こちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。

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不登校の長期化を防ぐには、まわりの大人が不適切な養育に気づき本来の子どもの安全を守っていかなければなりません。

不登校を引き起こす子どもの症状

学校でのマルトリートメントは、子どもに深刻な心理的ダメージを与えます。教室に入るのを恐れ、周囲から孤立してしまうケースもあるでしょう。学校へ行く意欲が低下し、不登校になる子どもの様子には以下のようなものがあります。

  • 不安や恐怖を感じ周囲に警官心を抱くようになる
  • 情緒的に不安定になる
  • コミュニケーションが困難になる
  • 自己肯定感が低くなる
  • 無気力になり何も楽しめなくなる

不登校になった場合は、長期的な影響を防ぐためにも子ども自身が抱えている症状を理解し適切に支援しなければなりません。

学校でマルトリートメントを受けているサイン

本来、学校は基礎的な学力や社会性を身につけるなど、子どもの成長過程に重要な場所です。しかし、学校でマルトリートメントを受けている場合、学校生活において子どもの健やかな成長は期待できません。

学校でのマルトリートメントを見逃さないために、子どもの言動の変化には注意しましょう。

  • 学校に行きたがらない
  • 頭痛や腹痛などの体調不良
  • 成績が低下する
  • 集中力がない
  • 怒りっぽく攻撃的な態度を取る
  • 友達と遊ばなくなり孤立する
  • 自傷行為がある

これらのサインは、必ずしもマルトリートメントを受けていると意味するものではありません。しかし、複数のサインがみられる場合は注意が必要です。

マルトリートメントを受けた子どものケアとサポート

家庭でも学校でも、マルトリートメントは無自覚に行われているケースが多く存在します。親や先生が、自身も同様の経験を持ち、それが「普通」だと認識している場合は問題意識を持ちにくくなるでしょう。自分が育った環境は、大人になってからの言動に大きな影響を与えます。

マルトリートメントを受けた子どもたちには適切なケアとサポートが不可欠です。心と身体の傷を癒し健やかに成長するためには、子どもたちに最適な支援を提供しなければなりません。ここでは、どのような支援ができるのかお伝えします。

身体的な問題がある場合

マルトリートメントは、目に見える傷跡だけでなく、内臓損傷や脳へのダメージなど、深刻な身体的損傷を引き起こす可能性があります。怪我や病気などがある場合は、安全確保に努め子どもを安全な場所に置くことを第一に考えなければなりません。

マルトリートメントは、家庭内での問題解決は困難です。地域社会が子どもを見守り必要な場合は声をあげることが大切でしょう。気づいた場合は、速やかに専門機関に連絡し、適切な支援に繋げることが大切です。

  • 児童相談所に連絡する
  • 警察に通報する
  • 地域の福祉センターに連絡する
  • 子どもが通っている学校に相談する

児童相談所やそのほかの相談窓口は、匿名で相談できます

心理的な問題がある場合

マルトリートメントを日常的に受けていると、愛情や関心を無視されたと感じるため、孤独感や不安感を抱えてしまいます。また、自己肯定感の低下や、発達障害などの問題につながる可能性もあるでしょう。

愛着障害やトラウマ、不安症がある場合は、心の傷を癒す治療が必要です。児童相談所、医療機関、教育機関などを利用して子どもの心の回復をサポートしましょう。

世代的連鎖がある場合

マルトリートメントを無自覚に自分の子どもに行っている親は、自分の親からもマルトリートメントを受けていた可能性があります。世代的連鎖を断ち切るには、まず親自身が育った環境を理解する必要があります。

自分の子育てがマルトリートメントだったと気づいたら、子どもに対する言動を見直し、自分の幼少期の経験を振り返ってみましょう。なぜなら、親に愛着形成障害があったり、貧困や孤立などの社会問題を抱える家庭で育ったりした場合は、親自身の心のケアも必要だからです。

自分が育った環境は、子育てに大きな影響を与えます。自分の幼少期の経験を理解しなければ連鎖を断ち切ることはできません。カウンセラーなどの専門家は、マルトリートメントの克服や子育てに関する知識やスキルを学ぶうえで役立ちます。過去の辛い経験を癒し自分自身を大切にできれば、子どもに心からの愛情を与えられるようになるでしょう。

世代的連鎖を断ち切るのは決して簡単ではありません。しかし、諦めずに取り組んでいけば親も子も心と身体の健康を取り戻し、不登校の根本の解決につながります。

まとめ|マルトリートメントを受けた子ども救うのは親の愛情

家庭や学校で無自覚に行われている可能性があるマルトリートメント。マルトリートメントは、子どもたちの心身に計り知れない傷を残します。日常的なマルトリートメントで子どもの自己否定感は強くなり、慢性的なストレスから不登校につながるケースもあるでしょう。

多くの場合、親は無自覚な言動によって子どもを精神的に追い詰めています。子どもが不登校になって初めて自分の不適切な言動に気づく場合もあるでしょう。親自身の幼少期の経験が、自分の子育てに影響していることも考えられます。

マルトリートメントの世代的連鎖を断ち切るには、親自身のケアも大切です。子育てに不安を感じたら、1人で抱え込まずに周囲に相談して支援を受けるようにしましょう。

子どもの心の傷を癒すのは親の愛情です。親子関係が改善し居心地のいい安心安全な場所ができれば、世代的連鎖は終わり子どもの健やかな成長を心から願えるのではないでしょうか。

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