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【ポリヴェーガル理論】から不登校を考える。子どもが動けない理由とは?

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「ポリヴェーガル理論」とは、私たちの体にある「神経系」と呼ばれるものに焦点を当てた理論です。不登校になると、朝起きられなくなったり腹痛があったり、登校しようとすると足がすくんでしまいます。「どうして?」と聞いても、子どもからはっきりした答えは返ってきません。

結論をいうと、原因がわからない不登校は、無意識に働く神経系の仕業です。不登校が長引くと、多くの親御様は「いつになったら元気に動き出すのかな」と心配してしまいますよね。しかし、ポリヴェーガル理論を知ると、不登校は子どもにとって必要な休息の期間だとわかるでしょう。

この記事では、ポリヴェーガル理論についてくわしく解説するとともに、不登校の子どもとの関わり方についてもお伝えします。また、学校へ行けなくなる根本の原因についても説明していますので、ぜひ読み進めてください。

目次

ポリヴェーガル理論とは

ポリヴェーガル理論は、1994年にアメリカの神経科学者であるステファン・W・ポージェス博士によって提唱されました。従来、自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つから成ると考えられていました。しかし、ポリヴェーガル理論によると、副交感神経はさらに2つの神経系に分かれているといわれています。

2つある副交感神経を「背側迷走神経複合体」「腹側迷走神経複合体」といい、私たちの体内で働いている自律神経は、全部で3種類あることがわかりました。これらの神経は、自分の生命を守るために意識に関係なく働いています。

ポリヴェーガル理論の神経系の働き

私たちの体内にある臓器のほとんどには、自律神経が通っています。自律神経には、活動するときに働く「交感神経」と、休息やリラックスするときに働く「副交感神経」があります。自動車に例えると、交感神経がアクセルで副交感神経がブレーキの役割を果たしているといえるでしょう。こがらは無意識に反応し、私たちがコントロールできるものではありません。

自律神経には、それぞれ働きがあり、危険を察したときなどは以下の反応を示します。

①交感神経・闘争or逃走反応を引き起こす
副交感神経②背側迷走神経複合体・不動化(フリーズ)反応を引き起こす
③腹側迷走神経複合体・社会的関わり反応を引き起こす

これらの3種類の自律神経は、生命が危機に直面したときに意思とは関係なく本能的に働く特徴があります

参考文献:ステファン・W・ポージェス(著) 花丘 ちぐさ(翻訳) ポリヴェーガル理論入門 心身に変革をおこす「安全」と「絆」2018年 春秋社

ポリヴェーガル理論の3つの無意識反応と不登校

ポリヴェーガル理論でいう3つの神経系の反応は、不登校の子どもの様子と重なる部分があるといわれています。すなわち、ポリヴェーガル理論の登場で「なるほど、だから学校へ行けないんだね」と納得できる説明がつくわけです。

ここでは、自律神経が引き起こす反応を、不登校の子どもの様子と合わせて具体的に説明します。

①逃げるか闘うか

人は、命を脅かすような危険に遭遇したとき、その場から逃げるかそれとも立ち向かって闘うかの準備を無意識にしています。これが「闘争or逃走」反応です。不安や恐怖に襲われると、交感神経が活発になり体内から多くのアドレナリンが分泌されます。心拍数が増したり呼吸が早くなったりして、逃げるか闘うかの準備をします。

学校生活のなかで、人間関係がうまくいかなかったり、勉強のプレッシャーがあったりすると子どものストレスは大きくなります。ストレスが限界に達して、逃げたいにもかかわらず我慢して学校へ行っているときは、まさに逃げるか闘うかの状況といえるでしょう。

②フリーズする

危機的な状況で、交感神経が過剰に働き極度の緊張状態になると、背側迷走神経が強いブレーキをかけます。ブレーキをかけて動かないようにする反応を「フリーズ(不動化)」といいます。わかりやすく言うと、猫に捕まったネズミが、実際は死んでいないのに死んだふりをして動かなくなる反応です。

不登校になると、家から1歩も出なかったり部屋に閉じこもったりの状態になる子どもがいます。無気力な様子で動かないのは、自律神経のブレーカーが落ちてまさにフリーズの状態といえるでしょう。

③社会との関わりを持つ

腹側迷走神経は、他者と関わるためにコミュニケーションをとる神経系と言われています。顔の表情や、声のトーンなどを無意識にコントロールしているのが「社会的関わり反応」です。

学校生活のなかで、先生や友達とコミュニケーションをとるときに、子どもたちは無意識に「社会的関わり反応」で対処しています。先生が苦手だったり、いじめがあったりすると「社会的関わり反応」で対処しきれなくなってしまいます。

ポリヴェーガル理論からわかる不登校の原因

不登校の子どもたちは「友達とうまくいかない」「先生と合わない」「授業がわからない」などの理由で、学校へ行きたくないと言います。しかし、これは学校へ行けなくなる根本の原因ではなく、単なるきっかけです。

なぜなら「学校が嫌だな」と思っている子どもたち全員が、不登校になるわけではないからです。また、きっかけとなる要因を解決したとしても不登校が続くケースもあるでしょう。ここからは、ポリヴェーガル理論からわかる不登校の根本の原因を解説します。

自律神経が乱れているから

これまで述べてきたように、不登校の子どもが動けないのは、自律神経のバランスが保たれていないからです。自律神経の働きは、自分ではコントロールできません。意識には上がって来ないので、子ども自身もよくわからないのです。

学校というコミュニティーのなかで、うまく自分を発揮できない子どもは多かれ少なかれいるでしょう。学校は、さまざまな個性や価値観を持つ子どもたちが集まっているところです。「友達とうまくいかない」「先生と合わない」と思っていても、子どもたちは「逃げるもならず、闘うもならず」の状況にいなければなりません。

それを我慢し続けるとストレスがたまり、知らずしらずのうちに自律神経のバランスが崩れてしまっているのです。不登校の子どもが、無気力になり動けなくなるのはポリヴェーガル理論から見ると自律神経のブレーカーが落ちた状態といえるでしょう。

子どもが不登校になって初めて、どれだけストレスフルな状態に耐えてきたかをまわりの大人は気づくのです。

ストレスが大きいから

学校生活で、常にストレスや緊張を感じている状態が続くと、交感神経が優位になり自律神経が乱れていきます。心身ともにいいコンディションで過ごすためには、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが整っていなければなりません。

自律神経のバランスが崩れる理由には、精神的ストレスと肉体的ストレスがあります。精神的ストレスには、人間関係のプレッシャーなどが挙げられます。多過ぎる宿題などで睡眠時間が確保できないなどは肉体的ストレスです。

ストレスを和らげるには、十分な休息が必要です。学校で嫌な出来事があれば、家でゆっくり休めるような環境を整えるのが大切でしょう。家が安心安全であれば、動くエネルギーは枯渇しません。

居場所がないから

子どもにとって、学校は1日のほとんどを過ごす場所です。先生との相性がよくなかったりいじめられていたりすると、学校は子どもにとって安心安全の場所とは言えません。不登校になるほとんどの子どもは、自分の居場所がないと考えています。安心できる居場所がないと、強い劣等感や孤独感におそわれて自己肯定感が低くなるばかりでしょう。

サボりや怠けだと疑って、親御様が「なぜ、学校へいけないのか」と問いかけを続けると、家にいても学校にいるときと同じようにストレスを抱えてしまいます。子どもにとって安全安心の場所がなければ、自律神経は安定しません。親御様は不登校になった子どもを責めるのではなく、まずは家を安心安全な子どもの居場所にしてあげましょう。

「疲れたら休める居場所がある」「理解してくれる人がいる」「助けてくれる人がいる」と解れば、子どもは安心して次の一歩が踏み出せるのです。

自己肯定感が低いから

自己肯定感とは、自分の存在に価値を感じ、自分を肯定的にとらえる意識や感情です。自己肯定感が低くなる原因は、他者と比較し劣等感を持ってしまうからです。ですので、自己肯定感を高めるには、ありのままの自分を受け入れ自分に価値を感じられるようになることが大切です。

そのためには、親御様やまわりの大人たちが、子どもの存在そのものを認め受け入れてあげなければなりません。自己肯定感の低さは不登校の根本の原因といえます。安心安全の場所で自分の存在を認められ、いいところに気づかせてもらい、人との関わりを通して自己肯定感は育まれます。

ポリヴェーガル理論を用いた不登校の子どもとの関わり方

不登校になると、多くの親御様は、どのように子どもと関わっていけばいいのか悩んでしまいます。子どもに気をつかったり励まそうと言葉を選んだり、親子のコミュニケーションに悩む親御様は多いのではないでしょうか。

ここでは、不登校の子どもとの関わり方を悩んでいる親御様のために、子どもへの対応の仕方をお伝えします。

家を安心安全な場所にする

子どもが学校へ行きたくないといったら、無理に学校へは行かせずに休ませましょう。親御様は、子どもが学校へ行きたくないと言ったときに初めて「学校で何かあったのかな」と疑問を持つかもしれません。しかし、子どもはずっと我慢し続け、逃げるか闘うかの状況から「安全な場所に逃げたい!」とSOSを発しているのです。

子どもの将来を心配して「勉強に遅れるよ」「取り残されるよ」と子どもに声かけをしても意味はありません。良かれと思う声かけは、逆に子どもを追い詰めてしまいます。ストレスが限界に達し「学校へ行きたくない」と言っている子どもには「家にいると安全だ」「自分はここに居てもいいんだ」と思える場所が必要です。

子どもに甘えさせてあげる

自分の好きなことばかりして過ごしている子どもの姿を見ると、親御様が「甘やかせすぎかな」と心配になるのは当然です。しかし、親が子どもを「甘えさせる」と、子どもの情緒的な欲求が満たされ、自己肯定感が高まるといわれています。

子どもを受け入れなければと、物質的な要求に応えて「甘やかす」という意味ではありません。子どもが助けを求めてきたら、話を聴いて受け入れて「甘えさせる」のが親の役目ではないでしょうか。情緒を安定させるために、スキンシップをとったり時間をかけて話を聴いてあげたりなどが効果的です。

今まで一生懸命に子育てをしてきた親御様ほど、子どもが不登校になると「育て方が悪かったのかも」と自分を責めてしまいます。しかし、自律神経が本能的に働いて、子どもは自分で自分の身を守っているのです。そう考えると、不登校の期間は、子どもにとってなくてはならない時間ととらえられるのではないでしょうか。

課題の分離をする

不登校は、子どもにとっても親御様にとっても辛い経験かもしれません。しかし、学校へ行くか行かないかは、子どもの課題です。何とかしてあげようと思うのは親のエゴかもしれません。そもそも、不登校でも学校以外の場所で学力を身につけたり、社会性を身につけたりできる場所はたくさんあります。

学校が合わない子どもたちに、学びを提供するフリースクールも増えてきました。現在の学校のシステムは、多様な子どもたちへの学びを必ずしも保証できるものではありません。学校以外の学びの場所の選択が、子どもの個性を伸ばすことにつながる可能性もあるでしょう。

子どもの将来を心配するあまり、親御様は先回りして子どもの世話をしてしまいがちです。しかし、必要なのは先回りではなく、子どもが自ら動き出そうするときのサポートです。子どもの課題に入り込みすぎず、自主性を育て成長を見守りましょう。

まとめ | 不登校はポリヴェーガル理論でいう神経系の仕業

この記事では、ポリヴェーガル理論と不登校の関係についてくわしく解説しました。また、不登校の子供との関わり方についてもお伝えしています。不登校は、子どもの意思とは関係のないところで自律神経系が働き、自分を危険から守っている状況です。取り巻く環境によって、どの子どもにも起こりうるものと考えられています。

不登校は永遠に続きません。安心して過ごせる場所があり、情緒的な欲求が満たされていけば、自己肯定感が育まれて社会との関わりを求めるようになります。不登校を、子どもにとって必要な休息期間だと理解すれば、親御様の不安や心配も軽くなるのではないでしょうか。

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